デパス（エチゾラム）高齢者への適正使用と転倒リスク評価

承認されている適応症

神経症における不安・緊張・抑うつ：

• 心身症（胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、自律神経失調症）における身体症候
• うつ病における不安・緊張

⚠️ 適応上の重要な制限：

• 原則として短期間の使用にとどめること
• 漫然とした長期投与は避けること
• 高齢者では転倒リスクを考慮した適応判断が必要
• 他の治療選択肢を十分検討してから使用

作用機序と高齢者での変化

GABA-A受容体への作用：

• 基本機序：脳内ベンゾジアゼピン結合部位でGABAの抑制作用を増強
• クロライドチャネル：開口促進により細胞内への陰イオン流入増加
• 神経抑制：中枢神経系の過度な興奮を抑制

高齢者での薬力学的変化：

• 受容体感受性：加齢により感受性が増大
• 脳血液関門：透過性変化により脳内濃度上昇
• 神経伝達：GABA作動性ニューロンの機能低下

転倒リスクに関連する作用：

• 筋弛緩作用：骨格筋の緊張低下
• 平衡感覚障害：前庭小脳系への影響
• 認知機能抑制：注意力・判断力の低下

用法・用量と高齢者での調整

【標準用量（成人）】

• 通常量：0.5mg 1日3回（最大1.5mg/日）
• 高用量：症状により3mg/日まで増量可能

【高齢者での用量調整原則】

【減薬・中止プロトコール】

1. 評価期間：現在の症状と副作用のバランス評価
2. 減量幅：25%ずつの段階的減量
3. 減量間隔：2週間毎の調整
4. 離脱対策：非薬物療法併用

禁忌・慎重投与

【絶対禁忌】

• 本剤に対する過敏症の既往
• 急性狭隅角緑内障
• 重症筋無力症

【高齢者での特別な注意（実質的禁忌）】

• 転倒・骨折の既往歴
• 重度認知機能低下（MMSE 20点未満）
• 複数ベンゾジアゼピン併用
• アルコール依存症

【慎重投与（要リスク評価）】

• 年齢：65歳以上の高齢者
• 腎機能：eGFR 60未満
• 肝機能：軽度以上の障害
• 呼吸機能：COPD、睡眠時無呼吸症候群
• 併用薬：他の中枢神経抑制薬

高齢者への投与における重要な注意

【投与前評価】

• 転倒リスク評価：歩行状態、筋力、視力、住環境
• 認知機能評価：MMSE、時計描画テスト
• 併用薬チェック：相互作用、重複投与
• 家族背景：服薬管理能力、緊急時対応

【投与中モニタリング】

• 定期評価項目：
  • 転倒・ふらつきの有無（毎回確認）
  • 認知機能の変化（月1回）
  • 日中の過度な眠気（毎回）
  • 依存症状の確認（月1回）

【患者・家族指導】

• 転倒予防指導：夜間トイレ時の注意、照明確保
• 服薬指導：用法厳守、自己調整禁止
• 生活指導：アルコール禁止、危険作業回避
• 緊急時対応：異常時の連絡先明確化

副作用と高齢者での特徴

【高齢者で頻度の高い副作用】

【重篤な副作用】

• 依存性：6ヶ月以上の連用で高率発現
• 離脱症状：不安・振戦・発汗・けいれん
• 奇異反応：興奮・攻撃性・幻覚（高齢者で頻度高）
• 呼吸抑制：高用量・併用薬で注意

【長期投与による影響】

• 認知機能低下：可逆性だが回復に時間要する
• 転倒骨折：大腿骨頸部骨折のリスク増加
• 薬物耐性：効果減弱による増量要求