キャリアノウハウ

疑義照会記載事項ガイド:監査対応の書き方とテンプレート集

薬剤師法第24条に基づく疑義照会記録の適切な作成方法を解説。監査で指摘されやすいポイントと対策、実践的なテンプレート集、電子化による効率化方法まで、明日から使える具体的手法を紹介します。

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はじめに:疑義照会記録の重要性と現状の課題

薬剤師法第24条により、薬剤師には処方箋の疑義照会が義務付けられています。しかし、多忙な業務の中で適切な記録を残すことは容易ではありません。日本薬剤師会の調査によると、疑義照会の内訳は以下の通りです。薬学的疑義照会が78.1%、形式的疑義照会(記載不備等)が21.9%となっています。

本記事では、監査に耐える疑義照会記録の作成方法について、実践的なテンプレートと共に解説します。電子化による効率化や成功事例も交えながら、明日から使える具体的な手法をお伝えします。

疑義照会記載事項の法的要件【薬剤師法第24条準拠】

薬剤師法第24条および保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第6条に基づき、疑義照会記録には法的に定められた必須記載項目があります。これらの項目を適切に記録することで、監査対応だけでなく、患者の安全確保と法的リスクの回避が可能になります。

必須記載項目チェックリスト

項目

記載内容

記載例

照会日時

年月日・時刻

2025年2月1日 14:30

患者情報

患者氏名・患者ID

山田太郎様(ID:12345)

処方医情報

医師名・医療機関名

〇〇病院 △△医師

照会内容

具体的な疑義の内容

用法・用量の確認

照会方法

電話・FAX・対面等

電話にて確認

回答者

医師名または代理応答者

△△医師本人

回答内容

変更指示の詳細

1日2回朝夕食後に変更

対応結果

変更後の処方内容

変更して調剤

記録者

照会を行った薬剤師名

薬剤師 鈴木一郎

疑義照会記録が不適切になる根本原因と対策

業務多忙による記録の後回し

調剤業務のピーク時には、疑義照会の記録が後回しになりがちです。電話での照会後、次の患者対応に追われることがあります。その結果、記憶が曖昧になってから記録することで、重要な情報が抜け落ちてしまいます。

対策:照会直後に最低限のメモを残し、当日中に正式記録を完成させる習慣を身につけましょう。

記載項目の理解不足

新人薬剤師や転職直後の薬剤師は、施設特有の記録方法に慣れていません。「何をどこまで記載すべきか」の基準が不明確なまま業務を行うことで、記載漏れや不適切な記録が発生します。

対策:テンプレートを活用し、必須項目を確実に記載できる体制を整えましょう。

システムの不備

手書きの記録簿では、決まったフォーマットがないため記載項目にばらつきが生じます。また、電子カルテシステムがあっても、疑義照会専用の入力画面がない場合、フリーテキストでの記載となり、必要項目の記載漏れにつながります。

対策:段階的な電子化を進め、入力フォームの標準化を図りましょう。

実践的な疑義照会記録テンプレート集

基本テンプレート

【照会日時】2025年2月1日 14:30
【患者情報】山田太郎様(ID:12345)
【処方医】〇〇病院 △△医師
【照会内容】セレコキシブ錠100mg 1日3回毎食後の用法について、添付文書では1日2回が標準であることを確認
【照会方法】電話
【回答者】△△医師
【回答内容】「1日2回朝夕食後に変更」との指示
【対応結果】セレコキシブ錠100mg 1回1錠 1日2回朝夕食後 5日分に変更して調剤
【記録者】薬剤師 鈴木一郎

用量変更の照会テンプレート

【照会日時】2025年2月1日 10:15
【患者情報】佐藤花子様(ID:67890)80歳 女性
【処方医】□□クリニック ◇◇医師
【照会内容】メトホルミン錠250mg 1日3錠の処方だが、eGFR値45のため減量が必要ではないか
【照会方法】電話
【回答者】◇◇医師
【回答内容】「腎機能を考慮し、1日2錠朝夕食後に減量」
【対応結果】メトホルミン錠250mg 1回1錠 1日2回朝夕食後 30日分に変更
【備考】次回受診時に腎機能再検査予定
【記録者】薬剤師 田中次郎

相互作用の照会テンプレート

【照会日時】2025年2月1日 16:45
【患者情報】高橋健一様(ID:11111)
【処方医】▽▽医院 ▲▲医師
【照会内容】ワーファリン服用中の患者にクラリスロマイシン処方。INR上昇リスクについて確認
【照会方法】FAX後、電話確認
【回答者】▲▲医師
【回答内容】「アジスロマイシンに変更」
【対応結果】アジスロマイシン錠250mg 1日1回 3日分に変更して調剤
【患者説明】相互作用回避のため抗生剤を変更した旨を説明し、理解を得た
【記録者】薬剤師 渡辺三郎

電子化による業務効率化の実現方法

疑義照会管理システムの導入メリット

電子化により、以下の効率化が期待できます。

  • テンプレート機能による入力時間短縮
  • 必須項目の入力漏れ防止アラート
  • 過去の照会履歴の即座検索
  • 統計データの自動集計
  • 複数店舗での情報共有

段階的な電子化アプローチ

段階

実施内容

期待効果

第1段階

Excelでの管理表作成
• 基本項目を列として設定
• プルダウンリストで入力を標準化

記載漏れ防止
入力時間短縮

第2段階

クラウドサービスの活用
• Google スプレッドシートでの共有管理
• 入力フォームの作成

複数拠点での共有
自動バックアップ

第3段階

専用システムの導入
• 電子薬歴システムとの連携
• AIによる記載内容チェック

完全自動化
監査対応強化

監査で指摘されやすいポイントと対策

よくある指摘事項TOP3

順位

指摘事項

対策

1位

時刻の記載漏れ

記録時に必ず時計を確認する習慣づけ

2位

曖昧な表現(「確認した」「了解を得た」)

「〇〇医師に電話で確認、用法を1日2回に変更」など具体的に記載

3位

事後記録の不備

照会直後にメモを取り、当日中に正式記録を作成

監査対応のベストプラクティス

  • 月次での記録内容の自己点検実施
  • 記録の保管期間(3年間)の厳守
  • デジタルデータのバックアップ体制構築
  • 監査時の即座提示のための索引作成

成功事例:効率化を実現した薬局の取り組み

電子化による改善事例

ある薬局では、疑義照会記録の電子化により、以下の改善を実現しました。

  • 記録作成時間の短縮
  • 検索性の向上による過去事例の活用
  • 月次レポートの自動生成
  • 新人教育での活用による標準化

プロトコル策定による効率化

医療機関との連携により、軽微な変更についてのプロトコルを策定することで、以下が可能になりました。

  • 剤形変更の事後報告制
  • 一包化指示の薬剤師判断
  • 残薬調整の標準手順確立

これにより、疑義照会件数の適正化と、真に必要な薬学的介入への注力が可能となりました。

まとめ:明日から実践できる3つのアクション

  1. テンプレートの導入
    本記事で紹介したテンプレートを印刷し、調剤室に掲示することから始めましょう。
  2. 記録の習慣化
    疑義照会直後に最低限のメモを残し、当日中に正式記録を完成させる習慣を身につけましょう。
  3. 定期的な見直し
    月に1度、記録内容を振り返り、記載漏れがないかセルフチェックを行いましょう。

適切な疑義照会記録は、患者の安全確保と薬剤師自身の法的リスク回避の両面で重要です。本記事のテンプレートと手法を活用し、監査に耐える記録管理体制を構築してください。

よくある質問(FAQ)

Q: 疑義照会の記録はどのくらいの期間保管する必要がありますか?

A: 薬剤師法施行規則により3年間の保管が義務付けられています。電子記録の場合もバックアップを含めて同期間の保管が必要です。監査時に即座に提示できるよう、日付順に整理して保管することが重要です。

Q: 医師が不在で疑義照会ができない場合はどう対応すべきですか?

A: 患者の安全を最優先に、代診医や当直医への照会を行います。それも困難な場合は、薬剤の交付を一時停止し、その旨を記録に残します。緊急性がある場合は、院内の医療安全委員会や薬事委員会のガイドラインに従って対応してください。

Q: 電子カルテシステムがない薬局での記録管理方法を教えてください

A: 手書きの疑義照会記録簿を作成し、日付・患者名・処方医・照会内容・回答・対応者名を必ず記載します。Excel等での管理も有効ですが、改ざん防止のため印刷して署名・押印することを推奨します。定期的なバックアップも忘れずに行ってください。

Q: 監査で指摘されやすい疑義照会記録のポイントは何ですか?

A: 記載漏れ(特に時間・対応者名)、曖昧な表現、事後記録が主な指摘事項です。「確認した」ではなく「○○医師に電話で確認、用法を1日2回朝夕食後に変更」など具体的に記載することが重要です。また、照会理由も明確に記録してください。

Q: 疑義照会の件数を適正化するにはどうすればよいですか?

A: 処方元との事前協議で頻出パターンを共有し、プロトコルを策定することが効果的です。また、薬剤師の判断で対応可能な軽微な変更については、事後報告制度の活用も検討してください。ただし、安全性に関わる事項は必ず事前照会を行うことが原則です。

Q: 在宅医療での疑義照会記録で注意すべき点はありますか?

A: 訪問先での照会では、患者・家族の同席下での内容を記録に含める必要があります。緊急時の連絡方法や代替手段も事前に確認し記録します。移動中の照会では安全な場所で行い、音声録音等の活用も検討してください。記録は当日中に完成させることが重要です。

Q: 疑義照会記録の電子化によるメリットは何ですか?

A: 検索性の向上、複数拠点での情報共有、統計分析による業務改善が主なメリットです。また、自動バックアップにより紛失リスクが軽減され、監査対応も迅速化します。クラウドサービス利用時は、医療情報の取扱いに関するガイドラインを遵守してください。

Q: 休日・夜間の疑義照会で記録が困難な場合の対応方法は?

A: 緊急連絡先への照会内容は、簡易メモでも必ず残し、翌営業日に正式記録を作成します。当直薬剤師制度がある場合は、引継ぎ記録も重要な証拠書類となります。患者安全を最優先に、可能な範囲で記録を残してください。

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