電子処方箋導入補助が2026年9月終了へ~薬局は継続支援を要望

電子処方箋導入補助終了の概要
厚生労働省は2025年3月に開催された第4回電子処方箋推進会議において、電子処方箋管理サービスの導入補助を2026年9月30日で終了する方針を示しました。これは薬局における電子処方箋の普及が一定の水準に達したとの判断に基づくものです。
2025年5月時点で、薬局の電子処方箋導入率は81.3%に達しており、厚労省は「ほぼすべての薬局での導入が見込まれる」と評価しています。一方、医療機関の導入率は同時点で病院12.9%、診療所19.0%にとどまっており、薬局と医療機関の間で大きな格差が生じています。
補助制度の詳細と終了スケジュール
現行の補助制度では、2025年9月30日までに電子処方箋管理サービスの導入を完了し、2026年3月31日までに申請した施設が対象となります。補助額は院外処方機能で最大27万7千円(事業費55万3千円の2分の1)、院内処方機能を含む場合は最大30万2千円(事業費60万3千円の2分の1)です。
この補助金は初期導入費用のみを対象としており、運用開始後のランニングコストは補助対象外となっています。補助終了後は、新たに電子処方箋を導入する薬局は全額自己負担となるため、未導入施設にとっては大きな負担増となります。
薬局側の懸念と反対意見
日本薬剤師会の田中千尋常務理事は、電子処方箋推進会議において「電子処方箋導入後のランニングコストに対する補助も考慮してほしい」と要望しました。日本保険薬局協会の首藤正一会長も「イニシャルコストだけでなく、ランニングコストがかかることが分かってきた。1薬局あたり年間7万円という話も出ている」と指摘しています。
特に300店舗以上を展開する薬局チェーンでは、カードリーダーなどの機器更新費用が大きな負担となっており、継続的な財政支援の必要性が強調されています。首藤会長は「電子処方箋が普及されないと効率化にならない可能性がある」と述べ、補助終了による導入ペース鈍化への懸念を示しました。
薬剤師業務への具体的影響
電子処方箋の導入は薬剤師の業務に多面的な影響をもたらします。メリットとしては、薬剤情報の一元管理による重複投与や相互作用のリスク低減、手入力作業の削減による業務効率化、お薬手帳よりも正確な情報に基づく服薬指導の実施などが挙げられます。
医師へのフィードバックもシステム上で完結できるため、疑義照会にかかる時間が削減され、患者対応により多くのリソースを割けるようになります。これにより薬剤師本来の職能である服薬指導や薬学的管理の質が向上することが期待されています。
一方、デメリットも存在します。システム障害や通信トラブル発生時には処方情報へのアクセスが制限され、患者の治療に影響を及ぼす可能性があります。導入初期は操作に習熟するまで時間がかかり、電子処方箋の仕組みを理解していない患者への説明スキルも求められます。
調剤報酬への影響と今後の展望
2025年4月の診療報酬改定により、医療DX推進体制整備加算3は調剤で6点(現在より2点増)となり、電子処方箋管理サービスに処方情報を登録できる体制が施設基準として新たに求められるようになりました。
2025年4月以降は、電子処方箋を受け付け調剤する体制を有するとともに、紙の処方箋で調剤した場合を含めて原則すべての調剤結果を速やかに電子処方箋管理サービスに登録する必要があります。これにより電子処方箋未導入の薬局は加算取得が困難となり、収益面でも不利な状況に置かれます。
2026年4月の次期診療報酬改定では、電子処方箋の普及状況を踏まえた調剤報酬体系の見直しが予想されています。処方箋料や後発品調剤体制加算など既存の評価項目が大きく変更される可能性があり、電子処方箋対応の有無が薬局経営を左右する重要な要素となりそうです。
転職市場への影響とキャリア戦略
電子処方箋の普及は薬剤師の転職市場にも変化をもたらしています。薬剤師の有効求人倍率は約3.1倍と依然として高水準を維持していますが、求められるスキルセットは変化しつつあります。
従来の管理薬剤師経験や認定薬剤師資格、在宅医療経験に加えて、電子処方箋システムの運用経験やデジタルツールへの適応力が評価されるようになってきています。特に新規開局や大規模チェーン薬局では、電子処方箋導入プロジェクトの経験者やシステム選定・運用に携わった薬剤師の需要が高まっています。
キャリア戦略としては、電子処方箋を既に導入している薬局で実務経験を積むことが有効です。システム運用のノウハウ、患者への説明スキル、トラブル対応力などは今後ますます重要な差別化要素となるでしょう。また、医療DX全般への理解を深めることで、将来的な職域拡大にも対応できる人材として市場価値を高められます。
薬局経営者・管理薬剤師が取るべき対応
補助終了を見据え、未導入の薬局は2026年9月30日までに導入を完了することが推奨されます。補助金を活用できる最後のチャンスであり、初期費用の半額が支援されるメリットは大きいです。
導入済みの薬局では、ランニングコストの見直しとシステム運用の効率化が課題となります。年間7万円程度のコストをいかに業務効率化による人件費削減や加算取得で回収するかが経営の鍵となります。複数のベンダーから見積もりを取得し、保守費用やシステム更新費用を比較検討することも重要です。
スタッフ教育では、システム操作の習熟だけでなく、電子処方箋の意義や患者メリットを正しく理解し説明できる能力の育成が必要です。患者からの質問に的確に答えられることで、薬局への信頼が高まり、かかりつけ薬局としての地位を確立できます。
患者視点での変化と対応
電子処方箋は患者にとっても大きなメリットがあります。マイナンバーカードで処方情報を管理できるため、お薬手帳を忘れた場合でも過去の薬歴を確認でき、重複投薬や相互作用のリスクを回避できます。複数の医療機関や薬局で処方された薬剤情報が一元管理されるため、より安全で質の高い薬物療法が受けられます。
ただし、マイナンバーカードの取得や電子処方箋の仕組みについて理解していない患者も多く、薬剤師には丁寧な説明が求められます。特に高齢者に対しては、操作方法やメリットを繰り返し説明し、不安を解消することが重要です。
薬剤師は単なるシステム操作のサポート役ではなく、患者が電子処方箋のメリットを最大限享受できるよう支援する役割を担います。これは対人業務の新たな形として、薬剤師の専門性を発揮する機会となります。
今後の政策動向と準備すべきこと
厚労省は電子処方箋の普及目標を2025年夏までに見直し、さらなる導入促進策を検討しています。医療機関の導入率が低いことが課題となっており、医療機関側への支援強化や診療報酬上の評価拡充が議論されています。
2026年4月の診療報酬改定では、電子処方箋対応を前提とした新たな評価体系が導入される可能性が高く、未対応の薬局は大きく不利な立場に置かれるでしょう。補助終了後も政府は何らかの形で導入支援を継続する可能性がありますが、現時点では不透明な状況です。
薬剤師個人としては、デジタルリテラシーの向上、電子処方箋を含む医療DX全般への理解を深めること、オンライン服薬指導など新たなサービス形態への対応力を身につけることが求められます。変化を機会と捉え、積極的にスキルアップを図ることでキャリアの選択肢を広げられます。
まとめ:変化への適応がキャリアを左右する
電子処方箋導入補助の2026年9月終了は、薬局業界にとって大きな転換点となります。薬局側は年間7万円のランニングコスト負担を懸念していますが、業務効率化や加算取得により一定の投資回収は可能です。
薬剤師にとっては、デジタル化への対応力が今後のキャリアを左右する重要な要素となります。電子処方箋の運用経験やシステムトラブル対応力、患者への説明スキルなどは、転職市場でも高く評価される差別化要素です。
補助終了をネガティブに捉えるのではなく、薬剤師の専門性を発揮する新たな機会として前向きに捉えることが重要です。変化に適応し、継続的な学習とスキルアップを図ることで、将来にわたって価値ある薬剤師として活躍できるでしょう。
関連トレンド情報
電子処方箋導入補助2026年9月終了決定
影響度:厚生労働省が電子処方箋推進会議で導入補助を2026年9月末で終了する方針を発表。薬局の導入率は81.3%に達し、ほぼ全薬局での導入完了を見込む。一方で業界団体は年間7万円程度のランニングコスト負担を懸念している。
補助終了は薬局経営に大きな影響を与えます。未導入の薬局は2026年9月30日までに導入完了すれば最大30万円の補助を受けられるため、早急な検討が必要です。転職を考える薬剤師にとっては、電子処方箋導入済みの薬局での実務経験が今後の市場価値を高める重要な要素となるでしょう。
薬局のランニングコスト年間7万円の負担増
影響度:日本保険薬局協会の首藤会長が電子処方箋の運用で1薬局あたり年間7万円のランニングコストが発生すると指摘。初期費用への補助はあるが、継続的な運用コストは薬局の自己負担となり、特に大規模チェーンでは機器更新費用も課題に。
ランニングコストの負担は薬局経営の効率化を促進する契機となります。電子処方箋による業務効率化で人件費を削減し、医療DX加算の取得でコストを回収する戦略が求められます。管理薬剤師としてこうした経営視点を持つことは、キャリアアップにも有利です。
2025年4月から医療DX加算の要件厳格化
影響度:診療報酬改定により医療DX推進体制整備加算3が調剤で6点(2点増)となり、電子処方箋管理サービスへの処方情報登録が施設基準に。紙処方箋での調剤結果も含め、原則すべてを電子処方箋管理サービスに登録する必要がある。
電子処方箋未対応の薬局は加算取得が困難となり、収益面で不利になります。2026年4月の次期改定ではさらに評価体系が見直される可能性が高く、電子処方箋対応が薬局経営の必須要件となりつつあります。転職先選びでは、電子処方箋の導入状況と今後の方針を確認することが重要です。
医療機関の導入率は依然低水準
影響度:2025年5月時点で医療機関の電子処方箋導入率は病院12.9%、診療所19.0%にとどまる。薬局81.3%と比べて大きな格差があり、厚労省は導入目標を2025年夏に見直し、医療機関への支援強化を検討中。
医療機関の導入遅延は薬局の電子処方箋活用を制限する要因です。しかし今後は診療報酬上の評価拡充により医療機関側の導入が加速する見込みで、薬局側も本格的な運用準備が必要となります。電子処方箋を使いこなせる薬剤師のニーズは今後さらに高まるでしょう。
転職市場で電子処方箋経験が評価される時代に
影響度:薬剤師の有効求人倍率は約3.1倍と高水準を維持する中、電子処方箋システムの運用経験やデジタルツールへの適応力が新たな評価軸に。従来の管理薬剤師経験や認定薬剤師資格に加え、医療DX対応力が差別化要素となっている。
電子処方箋導入プロジェクトの経験者やシステム運用に精通した薬剤師の需要が高まっています。キャリア戦略としては、導入済み薬局で実務経験を積み、患者説明スキルやトラブル対応力を磨くことが有効です。医療DX全般への理解を深めることで、将来の職域拡大にも対応できる人材として市場価値を高められます。