キャリアノウハウ

薬剤師の夜勤・当直完全ガイド|給与相場から業務内容、転職時の確認ポイントまで徹底解説

病院薬剤師の夜勤手当は1回6,000円〜20,000円が相場。月4〜5回の夜勤で年間40万円〜60万円の収入増が見込めます。本記事では、施設規模別の手当相場、深夜割増賃金の計算方法、救急対応やコードブルー時の具体的な業務内容、「当直」と「夜勤」の違い、転職面接で確認すべき7つの質問まで網羅的に解説します。

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「病院薬剤師に興味があるけど、夜勤って実際どんなことをするのだろう」「給与はどれくらい上がるの?」——転職を検討する薬剤師にとって、夜勤の有無と条件は給与面だけでなく、キャリア形成やワークライフバランスに直結する重要な判断材料です。

本記事では、給与・手当の詳細から具体的な業務内容、そして転職時に必ず確認すべきポイントまで、薬剤師の夜勤・当直について徹底的に解説します。

病院薬剤師の夜勤手当・当直手当の相場

病院薬剤師の当直手当は、施設によって2倍以上の差があります。まずは施設規模別の相場を確認しましょう。

施設規模別の手当相場

施設タイプ

当直手当(1回)

特徴

大学病院

8,000円〜15,000円

研修体制が充実、教育的環境

総合病院・急性期病院

15,000円〜20,000円

高水準、救急対応が多い

中小病院

6,000円〜10,000円

施設ごとのばらつきが大きい

当直手当には法定基準があり、「1日平均賃金の3分の1」以上を支給することが義務付けられています。

夜勤パート・夜勤専従の時給相場

勤務形態

時給相場

備考

夜勤パート(20時以降)

1,800円〜3,000円

正社員より高い設定が多い

夜勤専従(病院)

5,000円〜7,000円

求人自体が少ない

夜勤専従(ドラッグストア)

4,000円〜5,000円

24時間営業店舗

深夜割増賃金の計算方法

労働基準法では、22時〜翌5時の深夜時間帯に基本給の25%以上を割増する義務があります。

条件

割増率

深夜労働のみ

25%以上

時間外労働+深夜

50%以上

休日労働+深夜

60%以上

【計算例】月給25万円の薬剤師が深夜8時間勤務した場合

年間休日125日、1日所定労働時間8時間の場合で計算します。

  1. 月平均所定労働時間:160時間
  2. 1時間あたりの賃金:250,000円÷160時間=1,562.5円
  3. 深夜手当:1,562.5円×0.25×8時間=3,125円

薬剤師の平均時給は約2,151円〜2,501円のため、深夜割増後は約2,688円〜3,126円となります。

年間でどれくらい収入が増えるのか?

夜勤回数

当直手当(1万円/回として)

深夜割増(3,000円/回として)

年間増収

月2回

24万円

7.2万円

約31万円

月3回

36万円

10.8万円

約47万円

月4回

48万円

14.4万円

約62万円

調剤薬局の夜間対応・オンコール手当

調剤薬局の夜間対応手当は、病院とは体系が異なります。

オンコール手当の相場

手当の種類

金額相場

備考

待機手当(メイン担当)

1,000円〜3,000円/回

最多は1,000〜2,000円

緊急出動手当

1,000円〜5,000円/訪問

別途支給されることが多い

サブ担当の待機

手当なしの場合も

薬局により異なる

2024年度調剤報酬改定による加算

夜間・休日等加算として、処方箋受付1回につき40点(400円)が算定できます。

対象時間帯

加算内容

平日19時〜翌8時

夜間・休日等加算 40点

土曜13時〜翌8時

夜間・休日等加算 40点

休日・深夜(開局時間外)

時間外100%、休日140%、深夜200%

病院薬剤師の夜勤業務フロー

夜勤は17時頃から翌朝9時まで続きます。時間帯別の業務内容を詳しく見ていきましょう。

勤務形態の種類

形態

シフト例

特徴

2交代制

日勤8:00〜17:00/夜勤16:30〜翌9:00

約16時間勤務(休憩2〜3時間含む)

3交代制

日勤/準夜勤16:30〜0:30/深夜勤0:00〜翌9:00

1回あたりの勤務時間は短い

時間帯別の業務内容

時間帯

主な業務

忙しさ

17:00〜18:00

引き継ぎ、日勤帯の残務処理

★★☆☆☆

18:00〜21:00

カルテチェック、救急外来対応、夜間処方対応

★★★★★

21:00〜0:00

急変対応、緊急入院患者への対応

★★★★☆

0:00〜5:00

仮眠(可能な場合)、緊急時の呼び出し対応

★★☆☆☆

5:00〜9:00

朝の処方準備、引き継ぎ準備

★★★☆☆

引き継ぎで共有される情報

  • 入院患者の急変リスクがある症例
  • 救急外来の混雑予想
  • 継続対応が必要な処方案件
  • 麻薬・向精神薬の使用状況と残量
  • 医薬品の在庫状況(欠品情報など)

救急外来での薬剤師の役割

救急外来での薬剤師の役割は多岐にわたります。

初動対応

  • 搬送患者の持参薬確認
  • アレルギー歴の確認(最重要)
  • 医師と協働での最適な薬剤選択の提案

処方監査・調剤

  • 相互作用・禁忌のチェック
  • 疑義があれば代替薬を提案
  • 中毒患者の原因薬剤検索と情報提供

緊急時の調剤対応

  • 迅速な注射薬調製
  • 救急カート用薬品の補充
  • 電解質補正液等の輸液準備
  • TPN(高カロリー輸液)や抗がん剤の無菌調製
  • 疼痛管理のための麻薬の緊急払い出し

コードブルー時の対応

コードブルーとは、院内で心肺停止など緊急事態発生時の全館放送による招集コールです。

薬剤師の役割

  1. 救急カート用薬剤を持って現場へ駆けつける
  2. 蘇生薬(アドレナリン、アトロピン、リドカイン等)の準備・供給
  3. 医師の指示に基づく即時調製
  4. 投与記録の補助
  5. BLS(一次救命処置)受講済みの場合は心臓マッサージに参加

急変時に頻用される薬剤

分類

薬剤例

求められる知識

循環作動薬

ドパミン、ドブタミン、ノルアドレナリン

投与速度、希釈方法

抗不整脈薬

リドカイン、アミオダロン

配合変化の確認

鎮静薬

ミダゾラム、プロポフォール

投与量の調整

「当直」と「夜勤」の違い

当直と夜勤は混同されやすいですが、労働基準法上の扱いが根本的に異なります

項目

夜勤

当直(宿直)

定義

22時〜翌5時に通常業務を行う

日中勤務に続く待機勤務

想定される業務

通常業務と同等

断続的・軽微な業務のみ

法定労働時間

カウントされる

含まれない

賃金

深夜割増賃金(25%増)

当直手当(1日平均賃金の1/3以上)

回数制限

特になし

週1回まで

睡眠

業務の合間に仮眠

十分な睡眠時間の確保が原則

⚠️ 注意点:救急病院の当直は実態として「夜勤」に近い業務量であることが多いです。転職時には求人票の「当直」という表記だけでなく、実際の業務負荷を確認することが必須です。

調剤薬局のオンコール対応の実態

調剤薬局のオンコール対応は、緊急時の呼び出しに対応できるよう待機することを指します。

対応業務

  • 在宅患者からの緊急相談
  • 医師からの処方箋発行時の調剤対応
  • 患者宅への薬剤配達
  • 服薬に関する電話相談

実態:呼ばれることは「ほとんどない」

オンコールで実際に呼ばれることは「ほとんどない」とされています。

  • 日程調整や事前準備で呼び出しを減らす工夫がされている
  • 複数薬剤師でローテーションを組んで負担を分散
  • 厚生労働省調査によると、27%の薬剤師が週1回以上の夜間・休日対応に携わっている
  • 約7割の薬局が24時間対応可能な体制を整備している

夜勤で求められるスキル

夜勤中は相談相手がいない環境で様々な判断を迫られます。「一人で完結する力」が最も重要です。

必要なスキル一覧

カテゴリ

求められるスキル

臨床スキル

一人で完結できる調剤・監査能力、TDM解析、配合変化の即時判断、代替薬提案

コミュニケーション

医師への簡潔な報告・提案力、看護師との迅速な情報共有、患者・家族への説明能力

判断力

処方の緊急性判断、患者の重症度推測、複数案件の優先順位判断

その他

体調管理による集中力維持、想定外事態への危機管理能力

転職時に確認すべき7つの質問

求人票だけでは夜勤の実態が分からないことが多いです。見学・面接時に直接確認することが必須です。

面接で必ず確認すべきこと

  1. 夜勤/当直の頻度と月あたりの回数
  2. 夜勤体制(1人か2〜3人か)
  3. 当直手当の具体的な金額
  4. 仮眠の取りやすさ(実態)
  5. 夜勤免除の可否と条件
  6. 夜勤終了となる年齢(45歳程度で免除となる病院もある)
  7. 夜勤明けの勤務(休みになるか否か)

求人票の読み方

記載例

意味

「夜勤月2〜3回」

一般的な目安

「月4回程度」

やや多め

「2ヶ月に1回程度」

少なめ(土曜・休日輪番日のみ対応など)

「ご家庭の事情により当直免除相談可能」

育児中の方に優しい職場の目印

病院規模別の夜勤回数目安

病院タイプ

夜勤回数(月)

備考

大学病院・大規模総合病院(300床以上)

3〜4回程度

当直形態の可能性が高い

中規模急性期病院(200〜300床)

2〜3回

夜勤2〜3人体制も増加

2次救急病院

2〜4回

救急受入件数により変動

慢性期病院・リハビリ病院

ほぼなし

夜勤を避けたい方におすすめ

夜勤免除制度について

育児介護休業法により、小学校就学前の子どもを養育する労働者が深夜業(22時〜5時)の免除を請求した場合、事業主は原則として拒否できません。

免除対象外となるケース

  • 入社1年未満
  • 16歳以上の同居家族が夜間に子どもの面倒を見られる場合
  • 週の勤務日数が2日以下の場合

現場薬剤師のリアルな声

忙しさについて

「8時から9時くらいまでは電話対応と処方入力確認で多忙。カップ麺は基本伸びます。食べ始めると必ず電話で呼ばれる」

救急対応について

「救急外来は平均10件/日だが、20件くらい来るとかなりきつい。最高は30件、先輩は80件(インフルエンザ時期)という日も」

手当の実態について

「自分の病院は当直手当が約8,000円、夜勤は約7,000円程度。月2回程度。友人の病院はこの倍近くもらっていた」

身体的負担について

「夜間の仕事は生活リズムが崩れる。特に女性は体調を崩す方も多い」「30代半ば以上になると体に響いてくる」

メリットについて

「夜勤業務は業務カウントなので、日中は休んだり遊びに行ける」「1人で様々な対応をするため、判断力や知識が磨かれる」「緊急性の高い場面で患者から感謝される」

夜勤なしで働ける職場の選択肢

夜勤を避けたい場合の選択肢は豊富にあります。

病院で夜勤がない職場

  • 慢性期病院
  • リハビリ病院
  • 療養型病床中心の病院

💡 判断基準:救急医療に対応しているかどうか。病床が20床以上で救急指定がある病院は夜勤の可能性が高い。

病院以外の選択肢

  • 24時間営業でない調剤薬局・ドラッグストア
  • 製薬企業
  • 医薬品卸企業
  • CRO(治験関連企業)
  • 行政機関(公務員薬剤師)

まとめ:夜勤経験は「一人で判断できる薬剤師」の証明

夜勤・当直のある職場への転職は、給与面でのメリット(年間40万円〜60万円増)キャリア形成の両面でプラスになりえます。

夜勤経験のキャリア上のメリット

  • 「一人で判断・対応できる薬剤師」としての証明になる
  • 救急対応経験は救急認定薬剤師取得への第一歩
  • 急性期病院での夜勤経験は転職市場でも高く評価される

考慮すべきデメリット

  • 30代半ば以降の体力的負担
  • 家族との時間の確保
  • 長期的な健康への影響

転職時には手当の金額だけでなく、夜勤体制(1人か複数人か)、仮眠の実態、免除条件、終了年齢まで確認し、自身のライフステージに合った判断をすることが重要です。

転職エージェントを活用すれば、求人票に載っていない夜勤の実態を確認してもらえる点も覚えておきましょう。

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