キャリアノウハウ

公務員薬剤師とは?仕事内容・年収・転職方法を現役目線で徹底解説

公務員薬剤師の仕事内容・年収・転職方法を2025年最新データで解説。国家公務員・地方公務員の違い、採用試験の対策方法、志望動機の例文まで網羅。安定した働き方を目指す薬剤師必見です。

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薬剤師の就職先といえば、調剤薬局やドラッグストア、病院をイメージする方が多いのではないでしょうか。しかし、「公務員薬剤師」として国や自治体で働くという選択肢もあります。

公務員薬剤師は、景気に左右されない安定した雇用と充実した福利厚生が魅力です。薬剤師の将来的な過剰が懸念される中、長期的なキャリアを考える上で注目度が高まっています。

本記事では、公務員薬剤師の仕事内容から年収、採用試験の対策方法、志望動機の例文まで、2025年最新データをもとに徹底解説します。「安定した働き方をしたい」「社会貢献度の高い仕事に就きたい」と考えている薬剤師の方は、ぜひ参考にしてください。

公務員薬剤師とは?民間薬剤師との違い

公務員薬剤師とは、国や地方自治体に採用されて働く薬剤師のことです。国民や地域住民の健康と安全を守るという公共の福祉に関わる業務を担います。

民間の薬剤師が患者さんへの調剤・服薬指導を中心に行うのに対し、公務員薬剤師は医薬品の安全管理、食品衛生、環境衛生など、より広い視点から国民の健康を支える仕事をしています。

公務員薬剤師は大きく以下の3つに分類されます。

  • 国家公務員薬剤師:厚生労働省などの省庁で薬事行政に携わる
  • 地方公務員薬剤師:都道府県や市区町村の保健所・公立病院などで働く
  • 特殊な公務員薬剤師:麻薬取締官、自衛隊薬剤師、刑務所薬剤師など

いずれも薬剤師免許に加えて、公務員試験への合格が必要となります。

公務員薬剤師の種類と仕事内容

公務員薬剤師の仕事内容は、所属する機関によって大きく異なります。ここでは、それぞれの職種について詳しく解説します。

国家公務員薬剤師(薬系技官)

国家公務員薬剤師は、厚生労働省の「薬系技官」として採用され、国全体の薬事行政に関わる業務を担当します。

厚生労働省の発表によると、令和2年度から7年度までの採用実績は年間7〜9名程度と非常に狭き門です。

【主な担当分野と業務内容】

分野

主な業務内容

薬事

薬機法に基づく医薬品・医療機器の安全性確保、麻薬・覚醒剤の取締り、薬剤師国家試験の運用

食品安全

食品添加物の規制、食品中の農薬基準策定、食品衛生法に基づくルール作り

保健医療

診療報酬の検討、医薬品価格の評価・決定、後発医薬品の使用促進

化学物質

新規化学物質の審査、毒物・劇物の取締り、安全基準の策定

研究開発

新薬開発の環境整備、ライフサイエンス研究の推進、医療系ベンチャー支援

厚生労働省以外にも、内閣府の食品安全委員会や消費者庁、環境省など他省庁への出向もあります。2〜3年周期での異動が基本となるため、幅広い業務経験を積むことができます。

地方公務員薬剤師

地方公務員薬剤師は、都道府県や市区町村に採用され、地域住民の健康を直接サポートする業務を担当します。

【主な配属先と業務内容】

■ 薬務課

都道府県庁の薬務課では、薬局の開設許可や医薬品製造業の監視指導、毒物・劇物の管理などを担当します。薬事行政の中核を担う部署です。

■ 保健所

保健所では、薬事衛生・食品衛生・環境衛生の3分野を担当します。

  • 薬事衛生:薬局やドラッグストアの許認可、監視指導
  • 食品衛生:飲食店や食品製造業者への衛生指導、食中毒調査
  • 環境衛生:ホテル、美容室、クリーニング店などの衛生管理

■ 公立病院

県立病院や市立病院での調剤業務、服薬指導、医薬品管理を担当します。民間病院と同様の業務内容ですが、身分は地方公務員となります。

■ 衛生研究所

感染症に関連する検査や、食品中の有害物質の分析、環境汚染物質の研究などを行います。

麻薬取締官

麻薬取締官は、厚生労働省の地方厚生局麻薬取締部に所属する国家公務員です。「特別司法警察員」として、薬物犯罪の捜査権限を持つ点が大きな特徴です。

【主な業務内容】

  • 違法薬物(麻薬、覚醒剤、大麻、危険ドラッグなど)の取締り
  • 薬物犯罪の捜査・情報収集
  • 押収した薬物の鑑定
  • 薬物乱用防止の啓発活動
  • 医療用麻薬の流通監視

受験資格は30歳以下の薬剤師免許保持者で、採用は欠員発生時の不定期実施となります。令和4〜6年度の採用実績は年間9〜14名程度です。

その他の公務員薬剤師(自衛隊・刑務所)

■ 自衛隊薬剤師(薬剤官)

防衛省に所属し、自衛隊病院や駐屯地の医務室で調剤業務や衛生指導を担当します。「薬剤科幹部候補生」として採用され、28歳未満の薬剤師免許保持者が応募可能です。

■ 刑務所薬剤師(法務技官)

法務省に所属し、刑務所や少年院などの矯正施設で被収容者への調剤業務、服薬指導、施設の衛生管理を担当します。

公務員薬剤師の年収・給与【2025年最新】

公務員薬剤師の給与は、民間企業と比べてどのような水準なのでしょうか。2024〜2025年の最新データをもとに解説します。

国家公務員薬剤師の給与

2024年8月の人事院勧告により、国家公務員の給与は大幅に引き上げられました。

病院等に勤務する公務員薬剤師には「医療職俸給表(二)」が適用され、6年制薬剤師の初任給(2級15号俸)は24万4,400円となりました。前年比で2万1,700円の大幅アップです。

【国家公務員薬剤師の年収モデル(本府省勤務)】

年代

役職

年収目安

20代

係員

約466万円

30代

課長補佐

約756万円

40〜50代

課長

約1,292万円

50代〜

局長

約1,818万円

ボーナスは年間約4.65ヶ月分が支給されます。

地方公務員薬剤師の給与

令和6年の総務省調査によると、地方公務員薬剤師の平均給与月額は38万5,489円です。

ボーナス(年間約4.65ヶ月分)を含めると、平均年収は約640万円となります。

【地方公務員薬剤師の年収モデル】

年代

役職例

年収目安

20代

主事

約357万円

30代

主任主事

約433万円

40代

係長

約593万円

50代

課長

約924万円

自治体によって給与水準に差があるため、希望する自治体の給与条例を確認することをおすすめします。

民間薬剤師との年収比較

公務員薬剤師と民間薬剤師の年収を比較してみましょう。

項目

公務員薬剤師

調剤薬局

ドラッグストア

病院

初任給

約24万円

約25〜30万円

約28〜35万円

約22〜25万円

平均年収

約640万円

約490〜520万円

約510〜560万円

約430〜490万円

生涯年収

約2.3〜2.5億円

約2.2〜2.3億円

約2.2〜2.3億円

約2.0〜2.2億円

公務員薬剤師は初任給こそ低いものの、年功序列で着実に昇給し、退職金も手厚いため、生涯年収では民間を上回るケースが多くなっています。

公務員薬剤師のメリット7選

公務員薬剤師として働くメリットを7つ紹介します。

1. 雇用の安定性

公務員は景気変動に左右されにくく、倒産やリストラの心配がありません。薬剤師の将来的な過剰が懸念される中、長期的に安定した雇用が保証されている点は大きな魅力です。

2. 充実した福利厚生

公務員の福利厚生は民間企業と比べて非常に充実しています。

  • 育児休業:最長3年取得可能(民間は原則1年)
  • 育児短時間勤務:子どもが小学校入学まで利用可能
  • 住宅手当・通勤手当:各種手当が充実
  • 共済制度:医療費補助、貸付制度、保養施設の利用など

3. ワークライフバランス

定時退勤が基本の職場が多く、年間20日の有給休暇が付与されます。取得率も高いため、プライベートの時間を確保しやすい環境です。

4. 着実な昇給

毎年の定期昇給があり、勤続年数に応じて確実に年収が上がります。民間企業のように業績や評価による変動が少ないため、将来の収入見通しが立てやすいのが特徴です。

5. 社会貢献度の高さ

国民や地域住民の健康と安全を守るという公共の福祉に直結する仕事です。営利を目的としないため、純粋に社会貢献を実感しやすい点がやりがいにつながります。

6. 幅広い業務経験

特に国家公務員は2〜3年周期で異動があり、多様な部署で様々な業務を経験できます。薬剤師としての専門性だけでなく、行政官としての総合的なスキルが身につきます。

7. 退職金の手厚さ

公務員の退職金は民間企業と比べて高い傾向にあります。勤続35年以上の場合、2,000万円を超える退職金が支給されるケースもあります。

公務員薬剤師のデメリット4選

公務員薬剤師にはデメリットもあります。転職を検討する際は、以下の点も考慮しましょう。

1. 初任給が低い

公務員薬剤師の初任給は約24万円で、民間の調剤薬局(約25〜30万円)やドラッグストア(約28〜35万円)と比べると低めです。奨学金の返済がある場合は、転職直後の生活設計に注意が必要です。

2. 採用枠が少ない・倍率が高い

国家公務員薬剤師の採用は年間7〜9名程度と非常に狭き門です。地方公務員も自治体によっては倍率が20倍を超えることがあります。

3. 異動・転勤がある

国家公務員は全国規模での転勤の可能性があり、2〜3年周期で異動があります。地方公務員も自治体内での異動があるため、同じ職場で長く働きたい方には向いていません。

4. 副業禁止

国家公務員法・地方公務員法により、営利目的の副業は原則禁止されています。調剤薬局やドラッグストアでのアルバイトはできません。

公務員薬剤師になるには?採用試験と対策

公務員薬剤師になるためには、薬剤師免許に加えて採用試験に合格する必要があります。

国家公務員試験の流れと対策

【試験スケジュール(例年)】

  • 3月下旬:1次試験(教養試験・専門試験)
  • 4月中旬〜5月中旬:2次試験(専門試験・面接・政策論文)
  • 5月下旬〜:官庁訪問(最終面接)

【勉強方法と期間の目安】

公務員試験の勉強期間は半年〜1年が目安です。薬学の専門知識に加え、一般教養や法律、政策に関する幅広い知識が求められます。

  • 教養試験対策:数的推理、文章理解、社会科学など
  • 専門試験対策:薬学全般(薬理、薬剤、衛生など)
  • 論文・面接対策:政策への理解、志望動機の深掘り

書店で公務員試験の参考書を購入するか、予備校の講座を受講するのが一般的です。

地方公務員試験の流れと対策

【試験スケジュール(例年)】

  • 5月頃:1次試験(教養試験・専門試験)
  • 6月頃:2次試験(小論文・面接・グループディスカッション)

近年は従来の教養試験を廃止し、SPI(適性検査)を導入する自治体が増えています。受験する自治体の募集要項を必ず確認しましょう。

【合格者の勉強スケジュール例】

時期

取り組み内容

10月

職場見学会に参加、勉強開始(毎日4時間程度)

12月〜2月

教養・専門試験の問題演習を中心に

3月

説明会参加、小論文・面接対策を開始

5月

1次試験(試験直前は毎日6時間程度)

6月

2次試験

経験者採用(中途採用)の活用

国家公務員・地方公務員ともに、社会人経験者を対象とした「経験者採用枠」があります。

【国家公務員薬剤師の経験者採用(令和7年)】

募集ポスト

必要な実務経験年数

係長級

6年制大学卒:6年以上、博士課程修了:5年以上

課長補佐級

6年制大学卒:10年以上、博士課程修了:9年以上

選考は書類選考(小論文含む)と面接が中心で、筆記試験よりも職務経験や政策提案能力が重視されます。

年齢制限に注意

公務員試験には年齢制限があります。

  • 国家公務員:30歳まで
  • 麻薬取締官:30歳まで
  • 地方公務員:自治体により異なる(多くは35歳まで)

経験者採用枠では年齢制限が緩和される場合があります(例:62歳未満)。

公務員薬剤師の志望動機【例文付き】

公務員薬剤師の採用試験では、志望動機が重要な評価ポイントになります。説得力のある志望動機を作成するためのポイントと例文を紹介します。

志望動機のポイント

  1. なぜ公務員なのか:安定性だけでなく、公共の福祉への貢献意欲を示す
  2. なぜその職種なのか:国家公務員・地方公務員それぞれの特徴を理解する
  3. 薬剤師としての経験をどう活かすか:具体的な貢献イメージを伝える
  4. 将来のビジョン:入職後に取り組みたいことを明確にする

国家公務員薬剤師向け志望動機例文

私は、国民全体の健康と安全を守る薬事行政に携わりたいと考え、薬系技官を志望いたします。

調剤薬局での3年間の勤務を通じ、後発医薬品の使用促進や医薬品の適正使用の重要性を実感してきました。現場で感じた課題を制度設計という形で解決に導きたいという思いが強くなり、政策立案に関われる薬系技官の道を志すようになりました。

入省後は、現場経験を活かしながら医薬品の安全対策や薬剤師の職能向上に関する施策に取り組み、国民の健康に貢献したいと考えております。

地方公務員薬剤師向け志望動機例文

私は、地域住民の健康増進と公衆衛生の向上に貢献したいと考え、〇〇県の薬剤師職を志望いたします。

病院薬剤師として5年間勤務する中で、高齢化が進む地域では予防医療や健康啓発の重要性が増していると感じてきました。保健所での薬事衛生業務や健康教育を通じて、病気になる前の段階から地域住民の健康を支える仕事に携わりたいと考えております。

入職後は、薬剤師としての専門知識を活かし、地域の薬物乱用防止教育や感染症対策に積極的に取り組んでまいります。

公務員薬剤師に向いている人・向いていない人

公務員薬剤師への転職を検討する際は、自分の適性を確認することが大切です。

向いている人の特徴

  • 景気に左右されない安定した雇用を求める人
  • 社会貢献度の高い仕事にやりがいを感じる人
  • 長期的な視点でキャリアを考えたい人
  • 幅広い業務を経験したい人
  • ワークライフバランスを重視する人

向いていない人の特徴

  • 若いうちから高収入を得たい人
  • 特定の専門分野を極めたい人
  • 副業で収入を増やしたい人
  • 異動・転勤を避けたい人
  • 患者さんと直接関わる調剤業務を続けたい人

よくある質問(FAQ)

Q1. 公務員薬剤師の給料はいくらですか?

国家公務員薬剤師の平均給与月額は約36万8,522円、地方公務員薬剤師は約38万5,489円です。ボーナスを含めた平均年収は約600〜640万円となります。管理職になれば1,000万円以上も可能です。

Q2. 公務員薬剤師でも調剤業務はできますか?

公立病院に配属された場合は調剤業務を行います。一方、保健所や薬務課、厚生労働省などに配属された場合は、調剤業務ではなく行政業務が中心となります。

Q3. 何歳まで応募できますか?

一般的に国家公務員は30歳まで、地方公務員は35歳までが多いです。ただし、経験者採用枠では年齢制限が緩和される場合があります。

Q4. 公務員試験は難しいですか?

国家公務員薬剤師の採用は年間7〜9名と非常に狭き門です。地方公務員も倍率が20倍を超えることがあります。半年〜1年の勉強期間を確保し、計画的に対策することが重要です。

Q5. 民間の薬剤師から転職できますか?

可能です。経験者採用枠を活用すれば、民間での実務経験を評価してもらえます。現場経験を行政にどう活かせるかを具体的にアピールすることがポイントです。

まとめ

公務員薬剤師は、安定した雇用と充実した福利厚生を背景に、長期的なキャリアを築ける魅力的な選択肢です。

【この記事のポイント】

  • 公務員薬剤師は国家公務員・地方公務員・特殊職種に分かれる
  • 2024年の給与改定で初任給は24万4,400円に引き上げ
  • 平均年収は約600〜640万円、生涯年収では民間を上回ることも
  • 採用枠は少なく、半年〜1年の試験対策が必要
  • 経験者採用枠を活用すれば民間からの転職も可能

公務員薬剤師に興味を持った方は、まず志望する自治体の募集要項を確認し、説明会や職場見学会に参加してみましょう。情報収集を早めに始めることが、転職成功への第一歩です。

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