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【2026年度改定展望】在宅薬学総合体制加算2の「かかりつけ要件」見直しへ

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在宅薬学総合体制加算2とは?2024年度新設の背景

在宅薬学総合体制加算は、2024年度調剤報酬改定で新設された調剤基本料の加算です。従来の「在宅患者調剤加算」を廃止し、在宅医療に取り組む薬局の体制をより詳細に評価する仕組みへと見直されました。

特に「在宅薬学総合体制加算2」は、がん末期などのターミナルケア患者や医療的ケア児への対応を評価するもので、処方箋1回につき50点という高い配点が設定されています。加算1の15点と比較すると3倍以上の評価であり、高度な在宅医療提供体制を持つ薬局にとって重要な収益源となっています。

加算1と加算2の主な違い

在宅薬学総合体制加算1は、在宅業務に取り組む薬局の基本的な体制を評価するものです。在宅患者訪問薬剤管理指導の届出を行い、直近1年間の算定回数が24回以上などの要件を満たす必要があります。

一方、加算2はより高度な要件が設定されています。加算1の施設基準をすべて満たした上で、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  • 無菌製剤処理を行うための設備(無菌室、クリーンベンチ、安全キャビネット)を有していること
  • 直近1年間に小児在宅患者に係る実績があること

さらに、かかりつけ薬剤師指導料・かかりつけ薬剤師包括管理料の算定回数が年間24回以上という要件も課されています。この「かかりつけ要件」が、2026年度改定で見直しの焦点となっています。

2026年度改定の論点:かかりつけ要件の是非

厚生労働省は2025年8月27日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、在宅薬学総合体制加算2の施設基準となる「かかりつけ薬剤師指導料等の算定実績」の見直しを議論の俎上に載せました。

日本薬剤師会の見解:要件維持を主張

日本薬剤師会は、かかりつけ要件を維持すべきとの立場を示しています。その理由として、「かかりつけ機能を持った薬局が、退院後から自宅療養、看取りまで患者をフォローする」という一貫したケアの重要性を強調しています。

いわゆる「先発完投型」の薬局像を理想とし、外来でのかかりつけ機能と在宅での高度な医療提供機能を両立させることが、地域包括ケアシステムにおける薬局の役割として望ましいという考え方です。

在宅専門薬局からの反論:要件撤廃を要望

一方、在宅医療を中心に展開する薬局からは、かかりつけ要件の撤廃を求める声が上がっています。

都内で在宅支援薬局を4店舗展開する「おとどけ薬局」の事例では、江東店と墨田店で3カ月間(2024年6月〜9月)の実績として、居宅患者1,099人、そのうちがん患者116人、小児在宅患者12人に対応しています。しかし、在宅を専門に実施しているため外来のかかりつけ要件を満たせず、在宅薬学総合体制加算2を算定できていません。

同薬局は「かかりつけ薬局が外来、在宅、看取りまでシームレスな機能を有するには、一つの薬局で全てカバーするのは難しい」と指摘。「一定の居宅患者数の実績を持つ在宅専門薬局であれば、それに特化した算定ルールがあってもいいのではないか」と提案しています。

都市部と地方部で異なる事情

この問題は、都市部と地方部で事情が異なります。患者数が少ない地方部では、かかりつけ要件の緩和によって加算を算定しやすくしたいという狙いがあります。一方、都市部では在宅専門薬局と外来中心薬局の機能分化が進んでおり、現行の要件がミスマッチを生んでいるケースがあります。

無菌製剤処理設備の実績問題

在宅薬学総合体制加算2をめぐっては、もう一つ重要な論点があります。それは無菌製剤処理設備の「実績」の問題です。

設備を持っていても実績がない薬局が約3分の2

中医協に提出された資料によると、簡易型クリーンベンチなどの無菌製剤処理設備を持つ薬局のうち、直近1年間の無菌製剤処理加算の算定がない薬局が約3分の2を占めていました。在宅薬学総合体制加算2を算定している薬局においても、自薬局での無菌調剤実績があるのは27.3%にとどまっています。

現行ルールでは、無菌製剤処理設備を持つ薬局は無菌調剤の実績がなくても加算の算定が可能です。しかし、十分な機能を持たない都市部の小規模薬局の乱立が問題視される中、体制で評価する「ストラクチャー評価」から実績で評価する「プロセス評価」へと要件が厳格化される可能性があります。

地域内での機能集約化も検討課題に

無菌調剤の実績で評価すべきとの声もあり、地域内で無菌製剤処理設備を持つ薬局機能の集約化も検討課題となっています。すべての薬局が高額な無菌設備を持つのではなく、地域で役割分担をしながら効率的に在宅医療を提供する体制づくりが求められています。

薬剤師のキャリアへの影響

2026年度の調剤報酬改定は、薬剤師のキャリアにも大きな影響を与える可能性があります。

在宅医療のスキルがより重要に

在宅薬学総合体制加算の議論からも明らかなように、在宅医療への対応力は今後ますます重要になります。特に以下のスキル・経験が評価される傾向にあります。

  • 無菌調剤(TPN調製、抗がん剤調製など)の実務経験
  • がん患者への緩和ケア・疼痛管理の知識
  • 小児在宅医療への対応経験
  • 多職種連携(医師、看護師、ケアマネジャーなど)のコミュニケーション力

「かかりつけ薬剤師」としての実績も引き続き重要

今回の議論では在宅専門薬局からかかりつけ要件の撤廃が求められていますが、日薬が要件維持を主張していることからも分かるように、かかりつけ薬剤師としての機能は引き続き重視されています。

かかりつけ薬剤師指導料の算定には、保険薬剤師としての勤務経験が継続して3年以上、研修認定の取得、地域活動への参画、週32時間以上の勤務、当該薬局に1年以上の在籍といった要件があります。キャリア形成を考える上では、これらの要件を満たしながら経験を積むことが重要です。

転職を考える際のポイント

在宅医療に携わりたい薬剤師が転職を検討する際は、以下のポイントをチェックすることをおすすめします。

  • 在宅薬学総合体制加算1・2の届出状況
  • 無菌製剤処理設備の有無と実際の稼働状況
  • 在宅患者数とがん患者・小児患者の比率
  • 地域連携薬局・専門医療機関連携薬局の認定状況
  • 緩和薬物療法認定薬剤師など専門資格取得のサポート体制

2026年度改定に向けた今後のスケジュール

2026年度診療報酬改定に向けたスケジュールは以下の通りです。

  • 2025年7〜9月:総論的な議論(その1シリーズ)
  • 2025年10〜12月:個別具体的な議論(その2シリーズ)
  • 2025年末:2026年度予算編成
  • 2026年2月頃:中医協答申
  • 2026年4月(または6月):改定施行

在宅薬学総合体制加算2のかかりつけ要件については、2025年秋から冬にかけての個別議論で具体的な方向性が示される見込みです。改定内容によっては、薬局の経営戦略や薬剤師の働き方にも影響が出るため、引き続き注視が必要です。

まとめ

2026年度調剤報酬改定では、在宅薬学総合体制加算2の「かかりつけ薬剤師指導料等の算定実績」要件の見直しが焦点となっています。日薬は要件維持を主張する一方、在宅専門薬局からは撤廃を求める声が上がっており、外来機能と在宅機能をどう評価するかが問われています。

また、無菌製剤処理設備の実績問題も浮上しており、「体制」から「実績」への評価軸のシフトが検討されています。薬剤師としては、在宅医療のスキル向上とかかりつけ機能の充実を両立させながら、キャリアを築いていくことが重要になるでしょう。

今後の中医協での議論に注目しつつ、自身のキャリアプランを見直す良い機会と捉えてみてはいかがでしょうか。

関連トレンド情報

在宅薬学総合体制加算2の「かかりつけ要件」見直しが議論の焦点に

影響度:

2026年度調剤報酬改定に向け、厚労省は在宅薬学総合体制加算2の施設基準である「かかりつけ薬剤師指導料等の算定実績」の見直しを中医協で議論。日薬は要件維持を主張する一方、在宅専門薬局からは撤廃を求める声が上がっている。また、無菌製剤処理設備を持ちながら実績のない薬局が約3分の2を占めることも問題視され、ストラクチャー評価からプロセス評価への移行が検討されている。

一言コメント:

薬剤師キャリアへの影響

今回の議論は、薬剤師のキャリア形成にも重要な示唆を与えています。

在宅医療のスキルがより重要に
在宅薬学総合体制加算の要件見直し議論からも分かるように、在宅医療への対応力は今後ますます評価される傾向にあります。特に無菌調剤の実務経験、がん患者への緩和ケア、小児在宅医療への対応経験は、転職市場でも高く評価されるスキルです。

かかりつけ機能と在宅機能の両立が課題
日薬が主張する「外来から看取りまで一貫して対応できる薬局」という理想像は、現実には達成が難しいケースもあります。しかし、かかりつけ薬剤師としての経験と在宅医療の専門性を両方持つ薬剤師は、今後も需要が高まると考えられます。

転職を検討する際のチェックポイント

  • 在宅薬学総合体制加算1・2の届出状況
  • 無菌製剤処理設備の有無と実際の稼働状況
  • 在宅患者数とがん患者・小児患者の比率
  • 専門資格取得のサポート体制

2026年度改定の方向性が固まる2025年末までに、自身のキャリアプランを見直しておくことをおすすめします。

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